関西大学 大阪都市遺産研究センター 所蔵
商標ラベルデータベース


「浪花贅六庵(なにわぜいろくあん)蒐集ラベルコレクション」


 浪花贅六庵は、本名を浪花善三と言い、昭和初期に活躍した大阪の趣味人グループの世話役的存在であった。生歿年は不詳とされている。
道頓堀・戎橋東で「ナニワ子供用品店」を営むほか、道頓堀に営業所や趣味の店を何軒が開き、活動の拠点としていた。
住所は、転々としていたようで、分かっている住所だけでも「大阪市南区西櫓町十番地」「大阪市住吉区住之江公園池畔」がある。

 浪花贅六庵の主な活動は、木版絵葉書で、大阪・ミナミで開催された宝船絵葉書の交換会・「宝葉会」の幹事や「美葉会」の
同人となるなど、当時の絵葉書創作に影響を与えた人物として知られている。

 さて、浪花贅六庵蒐集ラベルは、形、絵、彩色ともにデザイン性の高いものばかりで、昭和初期の大阪美術界の発展をよく物語っている。
蒐集ラベル№「LB077」には、宮島しゃもじを模したもの(11.4×3.8㎝)のなかに「蒐集品 桃太郎を因むもの一切 各地の扚子、
土俗玩具 名物レツテル、驛辡票 乘車券、小繪馬、寶船 大阪市南區西櫓町十 浪花贅六庵」と印刷されており、贅六庵が、
これらを精力的に集めていたことがうかがえる。

 現在残されている贅六庵作の木版絵葉書には、「名物レツテル」「驛辡票」「乗車券」などがそのまま貼り付けられ、
背景の絵とともに、何とも趣ある作品となっている。
蒐集ラベルの中には、ちょうど葉書に貼り付けることのできる寸法のものも多く、ラベルを貼り付けた葉書の余白部分に、
作家の意匠をこらして一枚の絵葉書が完成するようになっていることから、ラベルを蒐集した主な目的の一つは、
木版画絵葉書のデザインのためであると考えることができる。

 蒐集ラベルからは、現在も営業を続けている店をいくつか発見することができ、戦中戦後の苦難を乗り越え、
 変わらず店を存続させてきた大阪商人の底力を感じさせる。
また、今はそのほとんどが姿を消してしまった寿司店・菓子店など、多くの飲食店の存在を、われわれの内に蘇らせてくれる。
中座や浪花座の道頓堀芝居興行の行き帰りや合間に、人々が入店し、雑踏のなか、大阪名物を賞味していた様子が
目に浮かんでくるようである。

 大正から昭和初期へとつづく時期、とくに芝居で発展した道頓堀界隈は、浪花贅六庵のような大阪の趣味人たちの感性を刺激し、
当時流行した絵葉書創作などを介して、同地域の芝居・飲食文化を発信していたのではないだろうか。

 浪花贅六庵蒐集ラベルコレクションは、昭和初期の都市大阪の隆盛と、大阪を象徴する街・ミナミで活動することを誇りとする文化人の
自尊心を感じる好資料である。


*参考文献『彷書月刊 絵葉書国人物誌〔大正・昭和初期編〕』2007年5月、彷徨舎

大阪都市遺産研究センター 非常勤研究員  森本 幾子


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